基調講演の一般公開について

 今回のソフトウェア・シンポジウムでは,会議初日(午後)と最終日(午前)に次の2つの基調講演(Keynote Speech)が予定されています.

 会場はいずれも「かがわ国際会議場」です.

(1) Opening Keynote (6/25 水曜日 13:00 - 14:30)

 まつもと ゆきひろ (ネットワーク応用通信研究所)
いまさら紹介の必要はないでしょう.プログラミング言語 Ruby の開発者として世界的に有名なプログラマです.

(2) Closing Keynote (6/27 金曜日 09:00 - 10:30)

 池上敬一 (獨協医科大学 越谷病院 救命救急センター)
シミュレーションを活用した救急医療専門家の養成という課題に取り組んでおられる気鋭のドクター.その知見はソフトウェア技術者の育成にも大いに参考になるでしょう.

 

 せっかくの機会ですので,これらの基調講演をシンポジウム参加者以外の方々にも一般公開いたします.

 聴講料はいずれも 1,000円 です.

 Opening Keynote はソフト業界の技術者・経営者にとって,またClosing Keynote は医療関係者にとって(そしてソフトウェア技術者の教育や管理に携わる方々にとっても),それぞれ有用な内容を含んだ講演だと思われます.ふるってご参加ください.

  特に事前の申込みは必要ありません.当日、会場(かがわ国際会議場)の受付でお名前を登録し,受講料をお支払いください.領収書をさしあげます.

 

なお,それぞれの基調講演のタイトルと概要は以下の通りです:

Opening Keynote 6/25(水) 13:00 - 14:30 @ かがわ国際会議場

テーマ:
「技術者の幸せとは何か?」-エンジニアサバイバルガイド-
講演者:
まつもと ゆきひろ(ネットワーク応用通信研究所)
概要:
 日本のIT業界ではエンジニアがあまり幸せそうにしていないという話をあちことでたびたび耳にする。 そこで、ソフトウェア・エンジニアアが幸せな生活を克ち得ることを目指して、サバイバルするためのアイディアについて, 「日本で一番幸せそうに見えるエンジニア」であり、Ruby言語の開発者として「世界的にもっとも有名な日本人プログラマ」である まつもと ゆきひろさんと一緒に考えてみよう。

Closing Keynote 6/27(金) 09:00 - 10:30 @ かがわ国際会議場

テーマ:
「21世紀の医療者養成」-In-Situ インストラクションの重要性-
講演者:
池上敬一(獨協医科大学越谷病院救命救急センター)
概要:

 In-Situ (http://ja.wikipedia.org/wiki/In_situ) というコトバは,分子 生物学の実験において「生体内の本来の場所での」という意味で用 いられる。in vivo も生体内であるが、in vivo が「試験管などで培養 された細胞内」での実験を指すことがあるのに対し、in situ は「その 細胞が由来する生物個体内の本来あるべき場所」での実験を意味 する。今回のキーノートでは「医療の現場に存在する」という意味で 用いる。

ソフトウェアの世界で大学を卒業したばかりの新入社員に「現場の仕 事」を任せられないのと同じように、医学部を卒業したばかりの研修 医に「医療タスク」の遂行を許可することはできない。そんなことを すれば顧客のクレームはもちろん、最悪の場合は刑事・民事訴訟の 被告になってしまう。。

医師不足は今後も進行するため、「医療崩壊」(特に救急医療の崩 壊)が深刻化することは確実である。日本救急医学会は過去25年間 に救急科専門医を2500 名養成したが(実際には育った医師を認定 する制度を導入した)、医師不足と医療崩壊に歯止めをかけるために は、例えば2500 名の救急医を5 年間で意図的に養成できるシステ ムが不可欠となる。我が国の医療機関には医師育成・能力開発部門 は存在しない。入試(文科省)と医師国家試験(厚労省)にパスする 能力を備えていれば、臨床・教育・研究・管理能力は自然に向上す るという暗黙の了解が行政と医学界に存在し、医師免許取得後の職 能向上は医師個人の動機・努力に委ねられてきた。医療者の教育は 院内においては講義が主体で、スキルアップのための研修・訓練は アウトソーシングで行われることが多いが、実効は上がっていない。

このような問題群を解決するには科学的・体系的かつ学際的なアプロ ーチが必要となる。直近の課題を「成人救急、小児救急、産科救急の 基本的なタスク遂行能力の訓練と客観的評価を受けた救急医を年間 500名養成する」と設定し、課題達成の方法を提示する。課題達成の 方法論は、「教授システム学」、「インストラクターコンピテンシー」、 「e-Learning/Learning Management System」、「現場のエキスパート」、 「教材開発・設計の専門家」、「職場に直結した訓練環境と資器材・装 置」、「Off-JTとOJTの融合」、そして「インストラクター」だと考えられ る。

新入社員も研修医も、舞台裏でリハーサルを繰り返し(Off-JT)、現場 というステージで成功体験を経験する(OJT で意図的に成功を体験さ せる)ことで一人前に育っていく。優れた人材が集まる業界の勝ち組に なるためには、Off-JT とOJT を自在に展開できる「インストラクター」が 組織のスター誕生 (使える人材) を演出する組織内の仕組みが必要 であろう 。それが In-Situ インストラクションである。